ファミリービジネス 両手利きのリーダーシップ

ファミリービジネスパラドックスをはじめ、ファミリービジネスのリーダーは様々な葛藤に身を置くことになります。

ファミリービジネスの強みも弱みも、多くはファミリービジネス独特の構造、ファミリーとビジネスという二つのシステムが重複していることに由来します。社長(オヤジ/オフクロ)と専務(ムスコ/ムスメ)の葛藤や、二代目のきょうだい間の紛争など、ファミリービジネスには必ずといってよいほど、「ビジネスの効率」と「ファミリーの感情」が入り乱れる問題が起きるものです。

ファミリービジネス特有のジレンマ

WellSpring代表の武井は、かつて寝具メーカーの社長である父のもとで取締役として商品開発を担当していました。父親が若い時に業界に先んじて発表し大ヒットした商品があり、会社の看板商品でもありました。しかし、武井が担当したときにはすでに時代遅れになり、大きな赤字を出していました。社内では早急に生産を中止すべきという声がほとんどで武井は責任者として中止を通達すべき立場にありました。ところが、中止を出すのに3か月もかかってしまったのです。その間、武井の心の中では「早く中止しろ」という声は聞こえるのに、体が行動を止めるという悶々とした状態でした。これこそがまさにファミリービジネスの特有のジレンマだったのです。

当時の武井はファミリーシステムの長男であると同時に、取締役としてビジネスシステムに属していました。ビジネスの責任者としては、赤字を止めなければならないと考え、ファミリーの一員としては、父親の良い息子として父親の誇りである商品をなくしたくないと無意識に考えていたのです。この2つのアイデンティティー(自己認識)が葛藤を起こしていました。3か月も悶々としていたある日、武井は父親と弟たちとゴルフを楽しむ機会がありました。父はゴルフが大好きで、三人の息子との初めてのラウンドがとても嬉しそうで、その笑顔を忘れられないほどでした。その翌日、武井は何の抵抗もなく、父親の商品の中止を宣言できました。今まで武井を止めていた「良い息子でなければならない」という思いは、ゴルフで充分に満たされ、あとは純粋にビジネス上の決断をするだけだったからです。

「ダブルバインド」の罠

ファミリービジネスのリーダーには、このような罠が数多く待ち受けています。古い幹部は息子(次期社長)に会社を改革してほしいと言いますが、いざ実行しようとするとその変化に抵抗を示します。父親(ファミリーの立場)からはリーダーシップを発揮しろと言われ、実際にリーダーシップをとると社長(ビジネスの立場)から俺に相談がない!と叱られる。父親(ファミリーの立場)は息子が優秀なビジネスマンであることを期待しますが、社長(ビジネスの立場)は自分の権限が侵されることを嫌い息子の提案を却下します。

このような板ばさみ状態を人類学者のグレゴリー・ベイトソンは「ダブルバインド」と呼びました。言葉と裏腹な態度など、相互に矛盾するメッセージを繰り返し受け取り、そこから逃げることも許されないような状態で起きる症状で、最悪の場合、統合失調症に至ります。ファミリービジネスのリーダーには、このダブルバインドの罠にはまり込む状況が数多く待ち受けています。

この状況を打破することが、リーダーとしての成長のひとつの段階であるとも言えます。同じ立場の友を持つことや、よき先輩経営者をメンター(相談相手)として持つことが大きな助けになるものです。自分の置かれた状況を客観的にとらえ、罠にはまっている自分や、そのような対応をせざるを得ない相手を許すことができたり、笑い飛ばすことができればもう心配ありません。なぜなら、ダブルバインドは外部の環境が直接引き起こすものではなく、自分が心の中で起こしている問題だからです。

ファミリーとビジネスの板ばさみになったときには、まずは、親孝行やお墓参りをした上で意思決定することをおすすめします。

『同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論』武井一喜 クロスメディア・パブリッシングより

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